アトピー性皮膚炎の湿疹の憎悪に対するダニ抗原の役割を否定する考えはないと思われるが、どの程度関係しているのかの理解はさまざまである。
簡易式無菌装置を用いた治療により、気管支喘息患者のこれまで使用していた経口ステロイドの投与中止が可能となり、大発作が生じなくなったとの報告(1)があるが、同じ治療で重症アトピー性皮膚炎児に対してはステロイド外用薬を使用しているため、正確な判断は出来ないと思われる。
また、アトピー性皮膚炎患者をクリーンルームに入院させる事により皮疹の軽快をみたという報告(2)などはあるが、入院という特殊な環境以外の自宅で防ダニ対策を行い、効果があると説得できるような報告は難しいようである。
家庭の部屋及び寝具を掃除する事によってダニを減らした家庭と、充分な方法を取らない家庭の患者の症状を比較した文献(3)もあるが、アトピー性皮膚炎におけるコントロール設定は極めて困難であり、アトピー性皮膚炎の家庭でダニ対策を行ったからといって必ずしも症状が軽快するとは言い切れないようである。
しかしダニアレルギーによる喘息・結膜炎・鼻炎の患者に対してはダニ対策が症状の軽減につながると言われているようである。
●ダニによるアレルギー反応(4)
広くアレルギー反応に関していえば、ダニが原因物質となることは広く知られており、T型とW型のアレルギー反応を起こすといわれている。
T型のアレルギー反応は即時型のアレルギー反応で、ダニ生虫・死虫・糞等のアレルゲンが体内に入ると抗体ができ、再度アレルゲンが体内に入ると、ヒスタミンなどの活性物質が放出され、気管・鼻腔・粘膜・皮膚などに作用し、アレルギー症状を発現する。
W型アレルギー反応はダニ刺されや、ダニを皮膚の表面で潰した場合にダニ体液が皮膚に付着したり、ダニの糞が汗に溶けて皮膚から吸収されたりして発症する皮膚炎のケースである。
W型反応はアレルゲンがリンパ球と反応するとリンパ球が活性化して、活性物質が放出され皮膚反応を起こす。この反応では抗体を作らない。また、アレルゲンが人の体内に入り込んでから反応が出るまで、数時間(5時間以上)かかる遅延型のアレルギー反応である。
●まずダニを知る
○家屋内のダニ構成比率(様々な条件により変化する)(4):
チリダニ科ヒョウヒダニ属(70〜80%),イエササラダニ(5〜10%),ホコリダニ(1〜5%),
ツメダニ類(1〜5%),コナダニ類(1〜3%)
○T型アレルギー反応のアレルゲンになるダニ(4):
ナミホコリダニ(ホコリダニ科),ヤケヒョウヒダニ・コナヒョウヒダニ(チリダニ科ヒョウヒダニ属),
イエニクダニ(ニクダニ科),ケナガコナダニ(コナダニ科)等
○W型アレルギー反応のアレルゲンとなるダニ(4):
ミナミツメダニ(ツメダニ科),イエハリクチダニ(ハリクチダニ科),イエダニ(オオサシダニ科),
スズメサシダニ(ワクモ科)等
○ヒョウヒダニの特徴(4)
a.大きさ;幼虫の体長0.18mm、成虫の体長0.3〜0.4mm、糞の大きさ0.01〜0.04mm。
b.分子量;虫体15,000、糞24,000。(糞の方がアレルギー活性が高い)
c.ライフタイムは約3ヶ月(至適環境下)。
d.餌は人間や動物の皮垢やフケ、食物残さなど(ホコリダニやコナダニなどはカビも)。
e.一匹のヒョウヒダニは平均毎日6個糞をする。一生に約500個の糞便を排出。
f.メスは一生の中で50〜100個を産卵(5)。
g.至適発育環境は、気温25℃、相対湿度75%。(56.5%以下では繁殖できない)
○ダニの特徴
a.洋室より和室、畳の表面より畳床(畳の下の床張り)で多くのダニを検出。
b.生息場所は寝具、畳、絨毯、カーペット、ソファー、ぬいぐるみ、カーテン、マットレス、枕、天井、
押し入れなど(6)。
c.寝具では生息するダニのうちヒョウヒダニの占める割合が高い(92.1%)(6)
●ダニ・ダニアレルゲンを減らす方法
○住宅構造・住居環境の防ダニ対策
a.ダニ数は概ね住宅の気密性が高いと多い(鉄筋住宅>木造構造)(7)。しかし最近の新省エネルギー
住宅ではダニが減少しているという報告(4)があり、十分な断熱・気密・換気・冷暖房の組み合わせがで
きればこの限りではない。
b.換気を行い、生活上の水蒸気が家屋内で吸収されたり、結露がおきて湿度が高くなるのを防止する。
換気扇・床下換気扇の設置や冷暖房器のドライ・送風や除湿機(留守中に使うと有効)の利用も効果的。
ただし、付近に高速道路や工場などがあり、外気に空気汚染がある場合や、花粉の飛散する時期に
花粉アレルゲンが問題となる場合には外気との換気は避けた方が良い場合がある。(9)
c.水蒸気を出すものを避ける。植物を置かない(5)。暖房・調理器具の工夫。
d.結露の発生しにくい間取り・家具の配置。
e.布張りの椅子やソファーは避け、クッションやムートンなどを置かない(5)。
f.掃除機(ダニ・アレルゲン除去率は50%程度が上限)や洗濯機(アレルゲン除去率は90%、糞は水溶性)
による除去(4)。
g.畳の中のダニを死滅させるには高周波による高温熱処理を受けるのが最も有効。50℃の環境下に20分
以上で畳の中心部が50℃になる(4)。
○寝具の内部のダニを減らす対策
a.布団乾燥車による乾燥や布団の丸洗いは、洗浄か乾燥の段階で高温処理が必須(6)。
b.布団をビニール袋に入れ、掃除機で袋内の空気量を減らしてから十分量の除湿剤や脱酸素剤を入れ
ると、ダニ数減少(4,10)。
c.枕は熱湯丸洗いできるものが良い(6)。
d.殺虫剤による殺ダニは人体に有害なものが多く、特に乳幼児に対する安全性も確認されていない(6)。
また、防ダニわた・毛布・絨毯で殺虫補助剤類・植物精油類・防黴剤等が繊維や綿などに染色するような
方法で塗り込まれている「防ダニ繊維」が市販されているが、忌避率50%以上を示す製品は少ない(4)。
e.布団の天日干しは表面だけは温度が上昇するが、ダニは裏面の低温の部分へ逃げて生存をはかる。
黒いビニールシートをかぶるという方法を真夏に行ってもダニはほとんど死なない(6)。
以上のような方法で布団や寝室のダニ駆除を徹底的に行っても、普通の住環境では効果は4週間しか持続しない(6)。頻繁にダニ駆除(掃除・洗濯)を行った上で、換気や除湿などでダニが繁殖しにくい状況を作り、ダニが減少した状態を持続させることが必要となる。
また、ダニを吸入することによりアレルギー反応が起こる場合、それを予防する方法として、浮遊した塵やダニを吸入しないよう工夫することが大切である。
布団の上げ下ろしをする時に舞い上がるダニアレルゲンは居間で静かに生活している時に吸引するダニアレルゲン量の1,000倍とされている(8)。
これらを防ぐには、布団は製品完成時に高熱処理や除塵処理を行ない、側生地にダニを通さない布地を用いたものを選んだり(11)、ダニや糞が通過できないカバーを掛け、布団内部からの発塵を減少させる方法が効果的である。また、就寝の約30分前までに布団を敷いておくようにし、空中浮遊アレルゲンを減らすのも重要である。
就寝中の寝返りによる浮遊アレルゲンに対しては、吸い込む枕元の空気を清浄にする空気清浄機を使用するのが効果的と考える。
ただし、ダニが原因で症状が出ている人の症状の軽減は期待できるが、ダニ以外が原因となっている場合は、効果がはっきりせず、前述したようにダニ対策を行ったからといって必ずしも症状が軽快するとは言い切れない。
参考文献
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三田哲郎 他、西日皮膚 49.730-733,1988
遠藤薫 他、アトピー性皮膚炎におけるダニ除去の効果の判定:アレルギー 46(10),1013-1024,1997
吉川翠、ダニによるアレルギー問題:J. Natl. Inst. Piblic Health. 47(1),1998
岡田茂 他、アトピー性皮膚炎のダニ対策:臨床皮膚 51(5増),105-109,1997
阿南貞雄、Tアトピー性皮膚炎B-2ダニ:皮膚科の臨床 33(8)特31,985-989,1991
川内良介 他:福岡市衛生試験所報告 18,30-,1993
Sakaguchi,M.,et.al、Measurement of allergens associated with dust mite allergy U.Concentrations of airborne mite allergens(Der T and Der U) in the house. Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 90,439-443,1989.
池田耕一、アレルギー問題に対する建築的対応:J. Natl. Inst. Piblic Health. 47(1),24-28,1998
米井晃子:アレルギー 44,116-,1995
宮坂都公、矢野哲夫、「ピューリスト」ふとんと「ミクロガード」カバーについて:皮膚、39(増19),122-127,1997